俺とDとパワーツールドラゴン
※遊戯王の話をします。ルールとかは詳細に書かないので雰囲気で読んでください。
黄金期の始まり
ディフォーマーとの出会いは小学生の頃だ。
当時猛烈に流行っていた遊戯王ブームに乗るため、僅かなお小遣いを握って近所のゲオへ行った際、適当に取ったパックに収録されていたのがこのディフォーマーというテーマだった。
一般的なモンスターカードには、場に出ると山札から一枚ドローできたり、死んだときに墓地からカードを手札に持ってこられたりと、特殊な効果を持ち合わせているのだが、このディフォーマーというテーマのモンスターはその効果を2種持っている。
彼は我らがディフォーマーを代表するメインアタッカーのラジカッセンさんだ。
見ると分かるように、攻撃表示と守備表示で持っている効果が変わっている。
ラジカッセンさんに置き換えると、攻撃表示の時は2回攻撃出来て、守備表示の時は戦闘を1回避ける事ができるといった具合だ。
この、表示形式によって役割が変わるというトリッキーさと目新しさ、馴染みの機械がモンスターとなっている取っつきやすさが小学生ながらに新鮮に映り、ディフォーマーテーマのデッキを組むに至ったわけだ。
デッキを組むにあたり切り札に選出したのが、パワー・ツール・ドラゴン氏である。
氏は、当時新しく追加された「シンクロ」というルールを用いて場に出る特殊なモンスターだ。この「シンクロ」ルールは私が遊戯王を始めた時期に追加されたルールで、既存のデッキを持っていた周りの友人にはまだ馴染みが薄かった。またしても目新しさに心奪われた私は、ディフォーマーとシナジーのあるこのパワーツール氏を切り札に選んだ。
装備カードによって強化されたパワーツール氏とディフォーマー諸兄でひたすらに上から叩き潰すこのデッキは、当時の攻撃力がすべての環境では無類の強さを誇り、めったなことでは負けることは無かった。
この体験から私はさらに、ディフォーマーというテーマに傾倒していく。
黄金期の終わり
中学生に上がってなお遊戯王ブームは根強く友人との間で流行り続けていた。
むしろ、別々の小学校から集まってきた新たな同級生たちとの、数少ない共通の話題として輪をかいて流行ったと言っても過言ではない。
ある日曜日、中学でできた友人たちと遊戯王をすることになった。
別々の学校、別々の環境を戦い抜いてきた新たな友人たちと戦えることに胸を躍らせ、愛するパワーツール氏とディフォーマー諸兄を携えて友人宅へ向かった。
そこで、自分が如何に小さいコミュニティで最強を実感していたのかを思い知ることになる。
「シンクロ」ルールを使いこなし場を制圧するブラックフェザー君、見たことのない魔法・罠カードを巧みに扱う強制脱出装置君、高火力・強効果で更に上から叩き潰してくる地縛神君らによって私のパワーツール氏はなすすべなく玉砕した。
「環境が変わる」という事象を実感した瞬間である。
もう攻撃力が物言う時代では無くなっていたのだ。
たくましく心強い面持ちだったパワーツール氏にも、新たな強敵たち・新たな戦術の前に、一抹の心もとなさを感じてしまったのも無理はないだろう。
幸か不幸かこの友人大会を最後に友人間で遊戯王のブームは去りつつあった。
これは遊戯王がつまらなく感じたのではなく、友人宅へ集まったことで共通の話題の幅が広がった為であり、ごく自然な流行の衰退として忘れ去られていくことになる……
本題
数年後……
俺
「さて……前置きはこのくらいでいいかな」
ここはわかにの精神世界。今日はある議題について結論を出すためにとある連中を集めている。
モバホン
「とっとと本題に入ろうぜ。そろそろ決断する頃合いだろう?」
モバホン
「スコープンももう呼んでるぜ。そろそろ到着するはずだ」
俺
「いつも悪いな……それでは一足先に始めるとしよう。本日の議題は、『新規、パワーツールブレイバードラゴンはディフォーマーデッキに採用するのか?』だ」
俺
「以前からビジュアルだけ明かされていたブレイバー氏の効果が開示された。この効果を検討し、果たして我らがディフォーマーデッキに相応しいかどうかを決定しよう」
モバホン
「パワーツール先輩の後継なだけあって、装備カードを主軸にした効果だな。①の効果は装備カードをサーチしてデッキを圧縮しつつ自身を強化する……ドローフェイズに装備カードを引いてしまうしょっぱいターンが少しか減るんじゃないか?」
俺
「その通りだ。しかも、終盤に召喚されたとしても墓地の装備カードをリサイクルすることができるから、稀にある装備カード切れの心配が無いのも強みだな」
モバホン
「それに加えて②の効果……装備カードをコストにモンスターの表示形式を変更するか効果を無効化できる。スぺルスピード2だし、表示形式変更を選べば単純に火力が高い相手にも対応できると……これはかなり有用だな」
俺
「確かに魅力的だ。ターン1制限があるから使いどころは考えなければならないが、相手の行動に待ったをかけられるディフォーマーデッキ唯一の効果になるだろう。俺はコックピットにエフェクトヴェーラーが乗っているんだと睨んでいるぜ……」
モバホン
「こんなもん採用しない手はねえじゃねえか。わざわざ集まる必要もなかったな……今日はこれで解散かい?」
スコープン
「ちょっと待ってください。まだ考えなくてはならないことがありますよ」
スコープン
「ブレイバー氏を採用するにあたって、チューナー視点からひとつ、危惧しなければならない事があります」
俺
「なるほど。数多の危機をシンクロで乗り越えてきた君の意見だ。聞かせてくれ」
スコープン
「それは……ブレイバー氏が星9モンスターである事です」
モバホン
「それがどうだってんだ?今までだって星12のクェーサー出せたじゃないか。今更星9なんて……」
スコープン
「クェーサーについては、クェーサーを出す構築になっていたからこそ叶ったシンクロです。わかにの好む装備カードを主軸とした構築では星7前後が最も出しやすいシンクロ……。星9のブレイバー氏をシンクロするには要求される素材があまりにも多いのです。モバホン始動で私を引っ張ってこれたとしても手札に星4ディフォーマーがいなければならない、さらに星4Dがいたとしても更にスマホンを手札に抱えていなければならない……ジャンクBOXやリペアユニットがあれば、私を守備表示で出すという選択も可能ですが、手順が複雑になるとわかにのプレミも無視できなくなってしまいます」
モバホン
「てめえ!わかにのプレイヤースキルを!」
俺
「……いや、いいんだモバホン。俺のプレイヤースキルとダイス運が低いのは今に始まったことではない……クェーサーが出せないのも複雑すぎてよくわからないからなんだ」
モバホン
「わかに……もういい大人なのにまだわかってなかったのか……」
スコープン
「以上のことから、ブレイバー氏を軽率に採用すると複雑になってプレイングに濁りが出てしまうのではないかと……そう伝えたかったのです……」
数時間後…………
モバホン
「さて、どうする?パワーツール先輩のメインウェポンであるダブルツールD&Cも装備できねえみたいだし、ブレイバーは不採用ってことでいいのかい?」
スコープン
「採用するとすれば、既存のディフォーマーデッキにそのまま入れることは難しいですね……構築を大きく変更する必要がありますし、D&C以外の装備カードを検討しなければなりません。そうなるとパワーツール先輩が活躍する場は少なくなるでしょう……」
モバホン
「だとしたら不採用で決定かな。あのわかにがパワーツール先輩を切れるわけがねえ」
俺
「……いや、俺はブレイバー氏をディフォーマーデッキに迎え入れる事に決めた」
モバホン
「お前……」
スコープン
「そうですか……それがわかにの選択ならば、それに従うほかありません。さみしくなりますがパワーツール先輩には私から連絡しておきましょう」
俺
「スコープン、その必要もない。パワーツール先輩を活かしつつ、ブレイバー氏も使うといっているんだ」
モバホン
「パワーツール先輩が残るっていうのはありがてえ……だがよわかに、お前今まで何度器用貧乏なデッキを組んできたか覚えてて言ってるのか?汎用罠ガン積み60枚デッキも、星7シンクロ幅広採用デッキも、結局うまくいかなかったじゃねえか。残念だがお前にはデッキを創作する才能は無いようだぜ……おとなしくデッキレシピ調べて素直にパワーツール先輩を使ってればいいじゃねえか」
俺
「いや、ブレイバー氏も使ってみせる」
スコープン
「お言葉ですが、ラジオンにD&Cが装備できないことを最近まで知らなかったり、通常召喚できないスマホンになぜ機械複製術が使えないのか悩んでいたあなたには、これ以上複雑なデッキにすることはお勧めできません」
俺
「プレイングなら回数をこなせばある程度改善する!知識だってあの頃よりは多少ついてるんだ!何とかなる!」
モバホン
「第一、D&Cはどうするんだよ!ブレイバー氏の効果ではサーチもサルベージもできねえぜ。ブレイバー氏はD&Cが装備できねえんだからな。代わりの装備カードでも探すのか?」
俺
「D&Cも採用する。ブレイバー用に別の装備を採用するかもしれないが、D&Cは今まで通りパワーツール先輩に着けて戦う!」
スコープン
「現状のディフォーマーデッキにこれ以上装備を足せばドローの質とモバホン、スマホンの命中率が下がってしまいます。そんなことになればただでさえ要求値の高いブレイバー氏のシンクロ、ひいてはパワーツール先輩のシンクロですらさらに難しくなってしまいます!そうまでしてブレイバーを使いたい理由はなんです?」
俺
「だって……!!」
俺
「パワー・ツール・ブレイバー・ドラゴン、かっこいいんだもん!!!!」
俺
「はっ!」
ちゅんちゅん、ちゅんちゅん
俺
「なんだ……夢か……」
終